山小屋へ 3
長浜インターから高速へ。
一路福井を目指す。
三日前に新月だった月はちょっと太って、西の空に。
これ、見れなかったなあ。
車、止まらなかったら。
(山小屋は、周りが高い木に囲まれているので)
ああ…すごいきれい。
着いた時にはもう、とっぷり日も暮れて。
月も沈んだあと。
山小屋のおじちゃんに鍵をもらいに行く。
が。
誰もいない… ううう(泣) なんでよ。
しょうがないので、山小屋こもり用の食料の買い出しに
近くのスーパーに行くことに。
途中、ぶつぶつ師匠に文句を言う私。
なんで電話で確かめてくれなかったのかとか。いろいろ。
ぐちぐち、いやな感じで。
だってちっとも山小屋に着かない。目的はそこにあるはずなのに。
どうしてだか、まっすぐ、スッといかない。
もう一度おじちゃんにちに戻ったら、いました。奥さんが。
おじちゃんは、お祭りに出かけてしまっているそう。
携帯に連絡してくれて、すぐ戻ってくるということなので、
ちょっと待つことに。
しばらくして、おじちゃん登場。
せっかく来たんだから、お祭り案内するよ、というので、
じゃあもうそうするか
ということになり、気持ちを切り替えて祭り見物に行くことに決めた。
ここは、越前大野。城下町。
街へ出て、驚く。
そこここに、光の道。
路地裏にも、大きな通りにも。
近づいて見たらロウソクの灯りだった。
なんて、きれい….
聞けば、何キロにも渡ってずっと光の道が続いているそう。
とっさに、私は
この祭りを守っているマンパワーに感動した。
受け継がれていく伝統。
守る力。
私たちが歩いたところは、寺町通りといって、
お寺が建ち並ぶ通り。
最初にのぞいたお寺で、息が止まる。
まるで極楽浄土。この世ではないみたい。
光の効果のせいだと思うけど。
もっと、なにかが…
境内を彩る光に近づいて、しゃがんで見たら。
ロータス。 ここにも。
次のお寺の灯籠にも。
ロータス。
ロータス ロータス ロータス!
これは….
これも、見れなかったなあ。車、止まらなかったら。
だって今頃はもう山小屋にひとりこもっているころ…..
うーむ…. なるほどー…. これはびっくりだ。
いつだって天の計画は素晴らしく、
私はちっぽけだ。
とても小さな声で師匠に「さっきはごめんなさい」と言った。
祭りの活気のなか、情けない心の私。
かっこわるすぎる。
でもかっこわるいのはまだまだ続く。
というか、ここからが始まり。
その後、おじちゃんに送ってもらい、いよいよ山小屋へ。
師匠と、師匠ママも着いて来た。
慣れない場所にたったひとりで泊まると言っている私を、
みんなが心配しているのがわかる。
変な人間だと、みんな思っているだろう。
特に、おじちゃんの奥さんと師匠ママは、信じられない、といった感じだ。
やっと山小屋に到着。 長い一日だった。 まもなく真夜中。
小屋の前で固まる。
ドアに、
虫が。
たくさん。
いきなりビビる私。
きゃあ、と言いながら部屋に入って、明かりをつけたら。
さらに、きゃあぁぁぁぁぁ…..
壁にも天井にも窓にも。 虫。虫。虫。 虫天国。
びっくり仰天な光景。
もうどうしていいかわからない。
蛾が!飛びまくる、飛びまくる。
私の心はオカルト映画の主人公。
こんな恐ろしい部屋に足を踏み入れたことはありません….
人生初の大ピンチ。
ここで暮らすなんて!
きゃあきゃあ逃げ回る(逃げたって無駄なのに)私を見て、
なんというか、
呆れたような、気の毒そうな、切なそうな、可笑しそうな目で見る、
おじちゃん….
(後で聞いたら、もうこの時「この人は無理」と思ったそう)
でも後戻りはできないんです! なんとかしなくっちゃ!
おじちゃんは「キンチョールを…」とか言うんだけど、
蛾が!こっちに向かって飛んでくるのよぉぉぉぉぉぉ!(愕)
目をつぶって、ぎゃああと言いながらキンチョールを撒く私。
それでダメなら、掃除機で吸い取れ、と言われて。
え~?それはちょっと…
と思ってたら、師匠ママがぐぃーんと掃除機スイッチオン。
片っ端から飛んでる虫を吸い込む。
そのとき。 虹色の声。
「殺るなら、自分の手で、殺りなさい」
とっさに、そうだ、と思った私は、
自分の手に掃除機を持って部屋中をまわり始めた。
もう何も考えずに。
なにもなにも、
考えずに。
山小屋は、ものすごい殺戮の現場になってしまった。
ひと通り虫を退治して、落ち着いたところで、みんな山を下りていった。
窓から、じゃあね、と手を振って。
ひとりになって。
部屋の真ん中にある掃除機を見たら
悲しくなった。
私は、
こんなことをするためにここへ来たんだろうか。
これでは、
静寂な場所を荒らしに来た悪魔だ。
この手でたくさん殺してしまった。
部屋中の窓を閉め切って、息をつめて眠った。
夢見が悪くて、何度も目が覚める。
ひどい寝汗。
気分が悪い。
土から何か盛り上がって、
山小屋の床を突き抜けて、
寝ている私を見下ろす存在が、いくつも。
輪になって、覗き込んでいる。
たぶん、夢だけど。
苦しかった。
私は、情けない。
まったく。
どうしようもない。
また先が、
見えなくなった。
(続く)
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