サインを読み取る

ピノ‧ノワール。
豆まきパーティの日にはじめて飲んだワイン。
ある親子を思い出す　…って、エッセイに書いた。
そのすぐあと、
たしか１０日も経ってなかったと思うけど。
ある場所で食事をするところを探していた。
ぱっと決めて入ったレストランの名前が…
「ピノ‧ノワール」


へえっ？
と驚いたけれど、何度も書いてもなあ？と思い、
その時はエッセイには書かなかった。
ひとりでびっくりしただけ。
しかし、
箱根に出るとは思わなかった。
なんでだよ？と首を傾げる。あの親子。
ついてくる、どこまでも。
宿のフロントに「本日のワイン　ピノ‧ノワール」と書いてあった。
は？と声に出して言う。（笑）


ぴの、が鍵だな。
暗号を使ってる。
ただ、なんと言ってるかわからない。
サインが読み取れない。
なんだろう？
会うまでは、きっと続くだろう。
だいじょうぶ、
会うから。ちゃんと。心配するな。ぴの天使。
おまえのかあちゃんはいま曲を書いてるだろ？
出来上がったらかあちゃんを連れて一緒に会いに来い。
待ってるから。
そしてみんなで歌おう。
箱根の夜、ピノ‧ノワールを三人で一本開けて、
ボトルは持って帰ってきた。
しばらく飾ろう。


さっき、またひとりで一瞬お花見。
今度は上野。
行ってびっくり。
去年の夏、蓮の楽園だったその場所が、
今度は桜の園になっていた…
私はあの時、
蓮ばかりに夢中になって、自分が何の樹の下にいるのか
わからなかったのだ。
桜だったとは….
しばらく呆然と立ち尽くす。
蓮は姿を消して、
代わりに池に覆いかぶさるように桜が咲いていた。満開。
ゆっくり歩く。
去年の桜の季節のことを思い出す。
あの頃、私は個展のことで苦しんでいた。
助けてくれた人がいる。
「明るい方へ　信じる方へ　いちごさん」とメッセージをくれたあの人は、
今はもっと私のそばにいる。
あの個展も無事に終わった。
私は桜のトンネルを歩きながら、去年の私に向かって話しかけた。
現在から、過去へ。
だいじょうぶだよ。　だいじょうぶ。そのままいけ。
もっともっと楽しいことになるよ。がんばれ。恐れるな。
あの時、今の私の声が、聴こえていただろうか。
たぶん、
私は聴いていたと思う。
素敵な場所をみつけた。
すぐ目の前に桜の枝が下がり広がるベンチ。


ベンチ…
これもまた暗号だ。
カヴンのメンバーを思い出す。
そこへ座ってじっと桜を見上げる。
よく観ると、たくさんの雀たちが桜の枝に止まっている。
みんな嬉しそう。
そりゃそうだろう。
やつらは、越えたのだ。凍える冬を。越えてみせたのだ！
羽を広げ、声高らかにさえずる。勝利の歌。
じわじわと私の心の底にパワーが漲る。
そうだ、
と思い立ち、去年の「あの場所」へ行こうと歩き始める。
そうする必要があると直感したので。
なにかまたサインがあるに違いない。
天からの言葉を受け取りに行こう！
目指すは…
そう、あの場所。　ロダンの「地獄の門」という作品の前。
私は去年そこでいったんなにもかも手放したのだ。
個展をやめようと決意した瞬間のことは今でもよく覚えている。
あの綱渡りのような時間の流れのなか…
一瞬一瞬、コマ送りのような決断の連続が私をここまで導いた。
一年経って、清々しく思い出せることの幸せよ…！
着いてびっくり。
心の中で大爆笑！
…閉まっている。（笑）
わはははは！
地獄の門が今度は閉まってるぞー！
そうか！
今は閉まってるか！
サイン、受け取ったぞ。
（わかりにくいかもしれませんが入り口の向こうに見えるのが「地獄の門」）


私にとっての地獄の門。
またいつふたたび開くかわからない。
その時は、また覚悟して飛び込もう。
サインは、
本当に天からの声なのか。
はたまた自分の思い込み、こじつけ、なのか。
それはわからない、
自分にしか。
たしかに感じる、この、感じ…
この感覚の次には何が起こったか、そのまた次には？
と、地道に繰り返し、
自分の人生を使って検証していくしかない。
帰りは、
去年師匠と歩いた道を通って駅まで戻ることにした。
花見客が今年も賑やか。
桜吹雪のなか。
きれい、きれい…


ふと、まーぼーを思い出す。あの時、
彼は個展のことを心配して何度もうちへ尋ねてきたと、
あとから言っていたな。（ちょうど留守にしていて会えなかったけど）
もうああして心配してくれる人もいなくなった。
でも。
　　　　いるでしょ？まーぼー。
小さく声に出して言ってみた。
　　　　いるよ
たしかに聴こえる。まーぼーの声。
　　　　ぼくはもっともっと、
　　　　あの時より　もっと、
　　　　いちごちゃんを助けられるようになったんだよ
私はサインを逃さない。
私は信じる。
宇宙の神秘を。
この世の奇跡を。