奇妙な5日間 (最後の日)
6時すぎに、さよちゃんがふすまからひょっこり顔を出す。
「おはよう」
そう。
今朝は少し早く起きて、明日香村へ行く約束してたんだ。
その前に散歩へ行こうよ
と言うので、わくわくしてついて行くことに。
「道ないとこでも平気?」と聞くので「いいよ」と答える。
行ってみたら、ほんとに道がない。
どうしてここを歩いてゆけるのだろう?
次の一歩をどこに出したらいいのか。 なぜわかるのか?
この人はきっと自分の人生もこんなふうに切り開いていける人なんだろう。
私はといえば…
こうしていつも誰かの後ろにくっついていくばかり。
先頭を行けた試しがない…
さよちゃんは、パッと立ち止まる瞬間があって、
何かな?と思うとそれは蜘蛛の巣を発見した時で、
大抵はくぐっていくけど、どうにも仕方ない時は
「ごめんなさいね~」
と言いながら、拾った木の棒の先で振り払って進んでいく。
さよちゃん、
木の棒が魔法の杖に見える。
舗装された道に出た時、
日傘をさして歩いてる私と並んだ影が面白かったので、写真に撮った。
私達は、とても仲良くなれたと思う。
お薦めのラーメン屋へ行こうとしたけど、まだ開店前で閉まってた。
なんだー
と、ふたり少しがっかりしながらも、
じゃ、開くまで他へ散歩に行こう!ということに決めて元気を出す。
お不動さんに連れてってもらった。
すごい不思議な場所。
私はとても気に入って、もうここに住みたいくらいに感じた。
鬱蒼と暗くて、静かで、小さな滝がある。
滝の脇をひょいひょい上の方までたちまち上ってしまうさよちゃんを
下から見上げて驚いていたら、
「苺さんもくる?」
と聞かれて、えーっと思う。 そんなことはやったことがない…(笑)
やれるんだろうか?
あっという間にさよちゃんが降りてきて、私に向かって手をのばす。
さあ!だいじょうぶ!
というように…。
本当に大丈夫なような気がして、できるような気がして、私も手をのばす。
繋いだ。
しっかり手を繋ぎ、
「そこに左足を」とか「そこをくぐって」とか「右足からまたいで」とか、
さよちゃんが声をかけてくれる通りにしていくと、ちっとも難しくない。
無事に高い場所までのぼれたー すごーい
すぐ横に滝の水。 触ってみる。 きもちいー! ひゃあー(喜)
ここに座って瞑想したいなーと言ったら、
さよちゃんも「いーねー」と賛成してた。
しばらくふたりでぼんやりそこにいた。 別に話もせずに。
会話って、面白いなと思う。
会ったばかりのふたりは、
お互い知り合いたくて、いろいろ言葉を使うものだけど、
そのうち言葉を使わない時間がやってくる。
新しい方法で、心を確かめるのだ。
言葉はどんどんいらなくなる。 信頼関係が深まれば深まるほど。
心から心へ。 意識から意識へ。 瞬時に飛び交うことができる。
降りる時さよちゃんが「下りの方が難しいよ」と言ったので、
少しだけ緊張したけど、怖くはなかった。
さよちゃんの手を、導きを、信頼してたので。
上ってきた時と同じように
手をひいてもらいながら降りてる時に、
ぱあーっとある思いが胸のなかに生まれた。
そうか。
これでいいんだな。 あたしはこれでいい。
こうしていつだって助けてくれる人が必ず人生に現われるんだから。
それでかまわないんだ。
いつでも「助けて」と言いながら生きてゆけばいいんだ、と思った。
これが、あたしだ。
ラーメン屋へ戻って、
ちょっと不思議な味の(笑)美味しいラーメンを食べて、
明日香村を目指す。
石舞台…観ました。 でかい。 中にも入ってみた。
その後、となりの芝生にごろごろ寝転んでいるうちに、
たぶん私は本気で眠ってしまった。
20分くらいか? 夢に天使が出てきたような…
ハッと目が覚めたら、なんだか世界が違って見えた。
時代が違って…と言った方が正確か? そんな感じ。
さっきまでの場所と違うように見える。
それから自分の人生も
これまでと違った角度から見えてるような。
どうーしたかな?これ?
宇宙のてっぺんから、広く宇宙を見渡せているような不思議な感覚。
さよちゃんは、えすみくんやヒロさんに写メールを送ったと言っていた。
一瞬、ふたりの顔を思い出す。
スイスロケに行ってる師匠の顔も。
家族や、いろんな友達も。
でもなんだかもう、みんな知らない人たちみたいに感じる。
わかるけど。知らない感じ。
変わらないのは、マチルダだけ。
いや、マチルダはもっと近くなった気がする。
そういう意味では、すべての距離感が変化してしまった。
ちょっと昼寝しただけなのに。 何が起きただろう?
最終の新幹線で東京に戻ることにして、
その前に、最後にもう一度虹の湯へ行こうということになり(笑)
明日香村とお別れする。
なんだか急に寂しくなり、帰りの車のなかでは無口になってしまった。
でも、露天風呂に入ったら元気になった。
出てから、コンビニで飲み物を買おうとしてる時、
私は突然彼女に
史上最高の人生の秘密を打ち明けてしまって自分で驚く。(笑)
あんな場所で…
お菓子や飲み物が陳列してある、
蛍光灯の明かりが煌々としてる、
あんなところで、あんなことを、
何気なくポロっと言ってしまうなんて。
恐ろしすぎる、自分…(笑) いったいどうしただろう?
秘密を打ち明ける時って、もうちょっとこう、なんか、
それに相応しい場所ってもんがあるだろう… ああ、それなのに。
コンビニの店内って。どうだろう?(笑)しかも、買い物の途中。
ホントになにもかもがおかしい。 狂ってる。
とうとう自分のほかに、あのことを知ってしまった人がいるなんて!
それが、さよちゃんだなんて!
なんでー?(笑)
しんじられなーいっ
首をかしげたまま(笑)さよちゃんちで、ご飯。
さよパパとさよママと。 みんなで。
食事後、さよママに新大阪駅まで送ってもらう。
一度話してしまったら、止まらなくなって、
結構帰りの新幹線でもあの話題が出た。 抵抗なんて。もうなくなった。
(笑)
ずっと何年も、あんなにしっかり守ってきた心の秘密。
あっという間にもう私だけのものではなくなった。あっけない出来事だ。
恐るべし、奇妙な5日間。
東京駅から自宅までテクテクと歩いてる間、
ピクニックへ行った日のことを思い出した。
もうあれなんて、まるで前世の記憶のようだ。(笑)
遠い遠い昔のことのよう。
すごいことになっちゃったなあ…
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