ロータス ロータス ロータス
丸10日の間。
静かな世界にいました。
知り合いが
確かに「聴いた」と言うので、
じゃ、そこへ連れてってよ、と頼んで、鎌倉の光明寺へ行くことに。
私と師匠と、その人と、もうひとりの友達、四人で。
4:00前に集合した私たちは異常にテンション高い。
空が白んでくる頃、お寺に着きました。
小さな蓮池に忍び込んで蕾を探し…
事前に電話で問い合わせた時、状況が悪いとは聞いていたけれど…。
確かに。
咲きそうな花が、ふたつ、しかありません。
ひとつはまだ蕾のまま。
音は、あれが…と期待。
なのに。
知らぬ間に、もう開いていました… じっと観ていたつもりなのに。
逃したかも~ と、がっくり。
そこへ住職がいらして「すみませんが…そこは立ち入り禁止なんです」
……
なんですとー?
ああ。ごめんなさい。だって扉が開いていたので、いいのかと。
それで一気に気持ちが冷めて、もう朝ご飯を食べて帰ろうということになりました。
だけど帰りの車の中で、どこか諦めがつかない私は、
もうこの際、最初に希望した「こじんまりした静かな蓮池」じゃなくてもいいや
と思って、近所の上野不忍池に明日から通おうと決意。
師匠はその日からロケで宮城へ(なんと!日本一の蓮池へ)行く予定。
地元の人や取材先の人に、花音について尋ねてきてね、とお願いする….
で、翌日。
5:30頃行ってみたら。 神聖な朝の空気など、どこにもなくて驚きました!
もうかなり人がいて、
前日の光明寺の朝と比べると、すっかり俗っぽい…
まあ、これが上野の良さというものか。
でも「これ」と決めた花があって。 観てすぐに、次の満月に咲くはずとわかったので、
あの蕾と付き合おうと決めて、写真を撮りました。
翌日はもっと早く4:00頃行ってみたら。
ちゃんとありました。 神聖な時間。 上野にも。
ああ、どこも同じだな、場所は関係ないなと思う。
あの、一番静かな、暗い、時間。
次の出発を目指すための、ひと呼吸おく感じの、時間の隙間みたいな。
世界で一番の早起きは、空でした。
空が少し明るい色を持ち始めると、
次に早起きなのは、虫たち。
水面にアメンボが登場する。
その次に鳥たち。歌を歌い始めます。
そして池の住人たち、…亀や、鯉や、水鳥なども起き出して。
野良猫たちも朝ご飯探しにウロウロし始めて。
それから、
植物が目を覚まします。
花が咲くのは、この時。
空が朝の色に染まり始めた時です。
(その後、人間が起き出す、という感じでしょうか)
私は最初に「これ」と決めた花の一生を見届けようと思ったのですが、なんと!
蓮池通い5日目の朝、衝撃が。
ううう…(泣)
その花は切り取られていました… あんまり奇麗で誰か持ってっちゃったんだろうか。
というわけで、その花が大きく咲くところは観れなかったのでした…
でも悲しんだのは3分くらい。いなくなってしまったものは仕方ない。
さーっとまわりを見渡すと「じゃ私でどうよ?」と言っている蕾があったので、
よし、きみにしようじゃないか、と即決。
その蕾は微妙に岸から遠く、誰かが切ってしまう可能性もないようだったので。
ま、そんなわけで蓮池へ通う日が長くなってしまったのでした。
おかげでその後もいろんな花と付き合うことになり、
「咲く瞬間」を何度も観れてよかったけどねー…
翌日、またいなくなってたらどうしようとドキドキしながら蓮池に向かったら
…よかった、だいじょうぶ。ちゃんといました。
一時間ほどで、この蕾が、
こんなことになります。
まあるく、まあるく、なって。徐々に花びらが開きます。
とてもゆっくりな動きです。でも確実に動いていきます。
蓮の花は、4日ほどかけて咲きます。
最初、蕾を少し開いて、また閉じて。
次の日にはもう少し開いて、また閉じて。
その次の日にはもっと開いて、また閉じて。
みつばちたちが集まり始めて。
最後、大きく咲いた翌日に一気に散るのです。
さて、花音。
蓮池にいると、6:00をまわった頃から人がたくさん集まり始めます。
写真を撮ったりしていたので、勝手に人々は私が蓮に詳しいと思い込むらしく、
たくさんの人に声をかけられました。「咲く時ぽんと音はするの?」と。
きっとそんな話をどこかで聞いてきて、
気になってる人はたくさんいるんだなあと思いました。
都市伝説みたいなことになってるんだろうか?(笑)
だけど、もう20年以上不忍池で蓮を撮ってるというおじいちゃんに尋ねたら
「じょ~だんじゃないよ。音なんかするわけね~だろぃ?」と笑っていたので。
さあ?なにがほんとうだろう?と思った私…
鎌倉へ連れて行ってくれた友人は「確かに聴いた」と言うのですが、
よくよくあとから確かめてみたら、
音は聴いたけど、その瞬間を見てない、ということがわかりました。
小さな蓮池のどこかでその音がした、ということらしい。
なるほど。
申し訳ないがそれは勘違いだろうと思う。
自然の中では様々な音がするので、いろんな思い込みがあると思います。
もし、咲く瞬間を観て同時に音を聴いた、という人がいたら
詳しくその時の話を伺いたいと思います。
師匠は取材撮影をしながらたくさんの人に尋ねたそうですが、
みんな「知らない」というなか、
ひとりだけ「花音をビデオにおさめてある」という人がいたそう。(!)
「ダビングして送ってとその人に頼んで」とお願いしましたが… ほんとうだろうか。
結局私は、物理的には音を聴くのは無理だと思いました。
音がしたとしても、
それは花びらに耳を近づけなければ聴こえないほどの、微かな音だと思うのです。
池中に響き渡るほど「ぽん!」と音がするなんて。
ちょっとそれはどうだろうと思います。
無音状態の室内で、だったら聴こえるかも。
でも。
心で聴くことは可能だと思います。
耳を澄ますんじゃんくて、心を澄ますのです… そうすると確かに、
聴こえます。 開花の、音が。
とても精神性の高い話だと感じます。 ロータスの花音。
それがわかった瞬間、
感動してしまって、
明け方、池の淵で、はらはら泣いてしまいました。
教えてくれたのは、マチルダでした。
今年の夏の始まりに
「なんとしてでも蓮の花の咲く音を聴きなさい」
という直感を受けたのですが、今にして思えば、「聴きなさい」ではなく、
なんとしてでも「聴こうとしなさい」ということだったんだなと思います。
聴こうとするなかで、見えた感じた、たくさんのことたち。それが宝です。
神様の授業は素晴らしい。
とても楽しい10日間でした。
宮城から帰った師匠はその翌日から今度はハワイロケへ行ってしまったので、
この10日ほどは、誰と口をきくでもなく、毎日花ばかりみつめていました。
ちょっとここではない、どこかひとつ違う世界にいる感じだった… ずっと。
今朝方夢をみました。
咲く時、ぽん!と大きな音がして
わっと驚く私。
音、聴かせてくれてありがとうと
お礼を言う夢。
ロータスに。
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