ドイツの列車ひとり旅 その3

ブロッケン。
なんだかかみさまにでもご挨拶にゆくような気分です。
まほうのほんをつくりました って、言いに行きたかった。
朝早くに目が覚めて。
身支度整えて。
準備万端。
ヴェルニゲローデの駅まで歩いて。
あら。
たしかここで切符買うのに。
閉まってる。
うーん。
駅の売店で尋ねてみたら、あと少しで開くよって。
しばらく外のベンチで待ってたら、開いた開いた。
往復の切符を買いました。
黒い煙もくもくのSL蒸気機関車で頂上までゆくのです。
初めて乗ったー。
機関車トーマスでしょ。
最初は住宅街を。
次に森の中を。
それから岩山を。
進んでゆくうちに濃い霧に包まれて。
駅に着いた時、ものすごい強い風がびゅーびゅー。
霧で何も見えないし。
ダウンジャケット着込んでいてもすっごく寒い!
スキー場で濃霧で暴風、みたいな感じを想像していただければ、
ほぼそれがブロッケン山です。
ついおととい、関東地方を台風が直撃したけれど、
私、実はあまり怖くなかった。
ブロッケンのてっぺんをひとりで歩いている時の方が怖かったからね!
だって片足を出すと一瞬ふわりと体が宙に浮くのです、風に飛ばされて。
慌てて踏ん張るんだけど。
今度は次の一歩が出ない。
向かってくる風のチカラが強くて。
あんなに力んで歩いたのはこの生涯初めての経験。
とっさに人生に置き換えた。
どうにもこうにも辛い時、この感覚を思い出そうって。
歯を食いしばって。チカラの限り歩いてゆく、この感覚を。
こうやれば進むんだ、って。
一応山頂をぐるりとひとまわりしようと決めた私。
次の列車の時刻まであと一時間あるから、
それまでできる限りここを見ようと。
これきびしーなー。
魔女の山かー。
七歳でここに来るのかー。
しんじられんなー。
とか心の中で思いながらとにかく歩いたのでした。
少しでも立ち止まると凍死しそうです!
ここが山頂ポイントという場所には、大きな石が置いてあって、
「BROCKEN 1142m」と掘ってある。
そして東西南北の印をつけた石がそれぞれその石を囲むように、
四方に埋めてありました。
ここがてっぺんかー
と石を触って。
吹き飛ばされそうになりながら、なんとか駅まで戻ってきたのです。
が。
その時、虹色の声。
山頂ポイントまで戻りなさいと。
びっくりしましたが、すぐにやり残したことが何だかわかりました。
列車の発車時刻まであと15分ほどです。
もう一度あの場所まで…….
でも「できるかどうか」なんてそんなこと考えてる暇はないのでした。
もし乗り遅れたら
次の列車まであともう一時間ほどここで待たなければなりませんが、
そうなったらなったで仕方ありません。
とにかく私は戻ったのです。
けれど今度は追い風でした。
背中を誰かがぐいぐい押す感じ。
ものすごい速さで進めたのです。
ここでもまた人生に置き換える私。
追い風の上昇気流の乗り方。うーん、この感覚ね、って。ふふ。
再び山頂ポイント。
そこであることをしました。
そうしたらその時、太陽がみえてきました!
ぱーっと光が差して。
あることをしていた私の手元を照らしたのです。
でもそこでじっと感激している時間はありません。
急いで駅へ戻らなければ。
今度は強い横風の中、しっかり足を前に一歩ずつ出しながら、
歩いていきました。
列車に乗って3分ほどで発車。
帰りは、美しい光の中を走りました。
木立の中に立ちこめる霧に、幾つもの光の筋。
まるで一枚の絵画を見ているようでした。
時折機関車がぽーっという汽笛を鳴らします。
あの音。風景。山頂で経験してきた全て。私の細胞に刻みつけられた記憶。
いつしか空は真っ青に。
ヴェルニゲローデに到着した時は、素晴らしい晴天でした。
風もなく穏やかで。ははは。
で、
結局ブロッケンの山頂がどんな場所だったのか。
私はよくわからないままなのです。
霧が濃くて、全体が見渡せなかったからです。
たぶん、ところどころ草原みたくなってて、
ほとんどの場所に岩がごろごろしてて。
そんな所です。
ドイツにいる間、いろんな人に「ブロッケンへ行く」というと、
みんな口を揃えて「あそこなんにもないわよ?」と言ったものですが。
いやいや、あそこは目に見えるものを見に行く場所じゃない。と思う。
目には見えないものを見にゆく山なんだよ。
きっと。
わたしはね、あのじかんをふりかえるとね、
しろいしろいせかいぽつんとひとりじぶんのこころのまんなかにいたような。
そんなようにおもいだすのです。
そしてあの瞬間あんなにはっきりわかりやすいカタチで
突然空に太陽が姿を現し、世界を照らしてくれたことが。
そのことを私はこの先一生忘れないと思います。
生まれ変わっても覚えていると思います。
11:27.2011.9.12 満月ポイントジャスト。
満月を境にその前後の景色があんなにも違ったという神秘を。
魔女の山。ブロッケン山頂で。
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あそこから晴れた、ということを。
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ヴェルニゲローデ駅の切符売り場にいる魔女の人形。
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31番ゲートから出発。ブロッケン行き。
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SL蒸気機関車で頂上まで行きます。
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街から森へ。森から岩山へ。景色を変えて。どんどん霧の中へ。

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