「世界の秘密」

2014-2023

あるところに、とてもお話上手なリスさんがいました。
お天気のいい日は広い原っぱで、
雨降りの日は大きな樹の下で、
集ったみんなのためにいろんなお話をしていました。
それは、リスさんの生き甲斐でした。
お話をすることが、楽しくて楽しくて仕方なかったのです。

リスさんは、
お話が上手なだけではなく、世界の秘密を知っていました。
知っているとは誰にも言いませんでしたが、
リスさんのお話を注意深く聴いているだけで、
世界の秘密を知る者たちが少しずつ森の中に増えてゆきました。

リスさんと同じように、
誰もがみんな「知っている」とは口にしませんでした。
ただ黙って、密かに、静かに、知ったのです。

リスさんは、
お話が終わったあとに、
美しい花びらをみんなにプレゼントすると決めています。
でも、
クマさんは言います、「はちみつじゃないの?僕いらないや」
ヘビさんは言います、「食べ物じゃないの?僕もいらないや」
モグラさんは言います、「花なんて見えないからいらないや」

そこへ、ヤギさんがやってきました。
「わあ!奇麗なお花だね!見てるだけで幸せだよ!ありがとう。
 君がみつけたの?すてきだね!
 そしてね、いつもためになることお話してくれてありがとう。
 お礼にこれをあげるよ」
そう言ってヤギさんは、リスさんにドングリをプレゼントしました。
リスさん大喜びです!
「わあ☆これ僕の大好物なんだ!ありがとう」

有り難く受け取ったリスさんは、
その日からヤギさんのことをたくさん考えるようになりました。
次に会ったら、ヤギさんの喜ぶようなことをしてあげたいな。
どんなことがいいかな?
リスさんは、
そう考えるだけで自分の心がピカピカ光ってくるのがわかりました。
とーってもいいきもちっ!
そうしたら、お空のずっと上の方から天使が飛んできて、
虹色の声で、こう言いました。
「リスさん、ヤギさんの好物は、紙のご飯ですよ。」

そうなんだっ?わかった!ありがとう、天使さん!

そう言いながら嬉しくてジャンプしたリスさんは、
引き出しの中をガサゴソ、なにやら探し始めました。
あった、あった、ありました、美しいお手紙。
古い友達からの大切なお手紙です。(リスさんの趣味は文通でした)
お友達の心はしっかりこの胸にしまったから、
この素晴らしいお手紙を、ヤギさんの美味しいご飯として食べてもらおう!
リスさんはウキウキしながら、翌日を待ちました。

さあ!
今日はいいお天気。太陽さんもお話会に参加していますよ。
リスさんは、
いつにも増してはりきって、みんなのためになるようなお話をしました。
面白そうに、みんな、うんうん頷きながら聴いています。
お話が終わったあと、
リスさんはいつものようにお花のプレゼントを配ろうとしましたが、
みんなさっさと帰ってしまいました。
リスさんのお話が聴ければ、みんなもうそれでよかったのです。

残ったのは、ヤギさんだけでした。
「リスさん、今日のお話も素晴らしかったよ。ありがとう!これお礼にプレゼント」
今日もヤギさんはドングリをお土産に持ってきてくれました。
リスさんは、
「ありがとう!とっても嬉しいよ!今日は僕からも贈り物があるよ、はい!これ」
と言いながら、美しいお手紙を渡しました。
ひと目見るなり、ヤギさん大感激です!
「わあ?なにこれ?とっても幸せな香りがする!美味しそうだな〜」
「食べたらますますハッピーになるよ!」
「そうだね。遠慮なくいただくよ!ありがとう、リスさん」
そう言ってリスさんとヤギさんは、それぞれのおうちへ帰ってゆきました。

その夜、
リスさんはヤギさんに感謝しながら、美味しいドングリをモグモグ♪
ヤギさんはリスさんに感謝しながら、幸せなお手紙をムシャムシャ♪

そうして、リスさんとヤギさんは、毎日お互いにプレゼントを贈り続けました。

そんなある日、大地震と、嵐と、洪水と、雷が、いっぺんにやってきて、
森のみんなは大慌て!
森の平和は消え去り、永い暗黒時代がやってきたのです。
みんな自分のおうちから一歩も出られず、お腹も空いて、苦しい毎日を送っていました。
でも、リスさんと、ヤギさんのおうちの中だけは平和に守られていました。

なぜって?

リスさんのおうちには、ヤギさんから贈られたドングリが山のようにあったからです。
ヤギさんのおうちには、リスさんから贈られた幸せお手紙がたくさんあったからです。

どんなに嵐が続いたって平気です。

リスさんはドングリを見るとヤギさんを思い出し、
ヤギさんはお手紙を見るとリスさんを思い出しました。
そこには、愛がありました。
なによりもそれこそが、生きる勇気と希望になり、
世界で一番強いものが、リスさんと、ヤギさんを守っていました。
リスさんとヤギさんだけが、世界の真ん中にたどり着けたのです。

永いなが〜い時間が過ぎ、森に平和が戻ってきました。
でも他の生き物はだあれもいなくなってしまいました。
かつて、リスさんが心をこめてお話したことは、
結局みんなのためにはなりませんでした。
あんなに毎日熱心に聴いてくれていたのに。。。。
せっかく世界の秘密を知ったのに。。。。
それだけでは何の役にも立たなかったのです。

森のお話会は、
リスさんとヤギさんのふたりだけで、また始まりました。

そのうち、
遠くの国から奇麗な青い羽のトリさんたちが飛んできました。
楽しそうにリスさんのお話を聴いてくれています。
ふとみると、地面にはアリさんたちの行列が。
ミツバチさんたちもブンブンやってきました。
また少しずつ、リスさんのお話を聴きにくる生き物たちが集ってきました。
みんな、世界の秘密を知りたくて。

さあ、今度はどうでしょう?
たとえまた嵐がやってきても、
みんなでチカラあわせて、全員無事に乗り越えられるといいですね。

本当に大切なものは、目には見えないのです。(モグラさーん、聴こえていますか?)
世界の秘密は、みんなの心の中に隠れているのですから。
そしていちばん大事なことは、
もしも秘密に気づいたならば、
それを使って何かをすること。
自分のために。
誰かのために。
宇宙のために。

これが、
みんな必ず幸せになれる方法です。

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